こんにちは、grandstreamです。
今回は、「「うつ」の効用 生まれ直しの哲学」を読んでみて、印象に残った点についてまとめてみたいと思います。
本書では、うつの原因を非常にシンプルなモデルで説明しています。また、本当にうつが治るとはどういうことなのか、さらには人間の生き方などのテーマについても扱っています。
人間を理解するのに必要な「頭」「心」「身体」の関係
本来動物は「心=身体」のみでできていると考えられています。喉が渇けば、水を飲みに行くように、心と身体は一心同体です。そして「心」は本能的な欲(~したい)の源泉です。
これに加え、人間は進化の過程で「頭」を発達させてきました。
「頭」は理性の場であり、コンピュータのような働き、つまり情報処理を行う場所です。(中略)「頭」はシミュレーション機能を持っており、「過去」の分析や「未来」の予測を行うのは得意ですが、「現在」を把握することが不得手です。(中略)また、「頭」はmustやshouldの系列の物言いをするのが特徴です。
↑本書でいちばん重要な模式図
さてこんな機能を持った「頭」ですが、厄介なことに、自分自身の「心」や「身体」をコントロールしたがる節があります。
つまり、「頭」vs「心=身体」という対立構造が生まれます。これが様々な精神疾患を理解するうえでとても重要です。
なぜうつになるのか?
端的に言えば、いろんな命令を下してくる「頭」にたいして「心=身体」がストライキを起こしている状態だと筆者は言います。
たとえば、過労でうつになる場合を例にとると、「心=身体」は(もう休みたい…寝たい…帰りたい)みたいに思っていても、「頭」はそれを許しません。(もっと働け!もっと追い込まないと成果が出せないじゃないか!)みたいに、理性的に「心=身体」をコントロールしようとするわけです。
それが積もり積もって、ある日限界を超え、「心=身体」が(もう無理!!)と暴動を起こした結果、「朝起きれない」「玄関から出れない」「会社の門をくぐれない」みたいな身体症状として表れてくるわけですね。これがうつですね。
遅刻とうつの関係
これは僕も知りませんでしたが、うつになると、遅刻が増えたり欠勤をしてしまったりするようなのです。
先程も述べたように、うつ状態に置いては、「頭」は「心=身体」の間の蓋を閉めてしまっています。
それぞれ、以下のような状態に有るようです。
- 「頭」…きっと自分は5分後に目覚めるはず
- 「身体」…目覚まし時計を止め、再び眠りにつく
- 「心」…会社に行きたくない。寝ていたい。
このような状態では、目覚めた瞬間の薄らぼんやりした状態で、「身体」が目覚まし時計を止めたら最後、5分後に目覚めることなどできません。
早起きしなければいけない現代。「心=身体」に感謝する
会社に務めると毎朝早起きをして、決まった時間に出社し、働かなければなりません。
でも、大自然由来の「心=身体」にしてみれば、そんなことは関係ありません。「社会のルール」に合わせて朝早く目覚めなければいけない理由など無いんです。
それを社会化された「頭」は「心=身体」に毎朝決まった時間に起きるように命令する。
だから、次のように筆者は言います。
(中略)「こんな時代に生まれたので、いつも不自然な無理をかけて申し訳ない」といった謝罪といたわりの気持ちを自らの「心=身体」に向けることが大切なのです。
うつ病にもいろいろある
現在の精神医療現場における診断法が変化してきたこともあり、一言に「うつ病」といっても色々な症状がありえるそうです。
- 内因性うつ病(典型的うつ病、古典的うつ病 etc.)
- 躁うつ病(双極性感情障害 etc.)
- 非定形うつ病
- パーソナリティ障害(自己愛性・境界性etc.)
- 神経症(抑うつ神経症、パニック障害、強迫神経症 etc.)
- 摂食障害(過食症、拒食症)
- 適応障害
- 気分変調症
- 軽症うつ病
僕も、うつ・不安の症状を抱えていますが、あえて当てはめるのなら神経症の部類なのかなと思っています。なお、主治医からは正確な診断名を教えてもらっていません。
「努力」信仰に潜むワナ
「努力することにこそ価値がある」この考え方は多くの日本人の精神性に奥深く浸透していると筆者は言います。この考えには僕も同意しますし、この考え方が「うつ」を生み出す要因にもなります。
さて、この考え方には「努力」した人が成功する、という誤解が潜んでいます。
なぜこのような誤解が生まれるのか。それは、努力と熱中の履き違えにあるといいます。
例えば、子供がスポーツや楽器を練習する際に、本人にとっては「夢中」と呼べるものも、周囲から見れば「努力」として称賛される傾向が有るようなのです。
「努力」には、ツライことを耐え忍んでなにかに取り組むというニュアンスがありますから、これを称賛する価値観が広まってしまうと、「頭」がそれを信仰した結果、「心=身体」に対して強力に命令を下すことにつながってしまいますね。
うつは心の風邪か?
よく「うつは心の風邪です」という物言いがされることがあります。
ということは、「風邪のようにスッキリ治る」ということをイメージしますよね。しかしながらそう簡単にはいかないのがうつ。
寛解(だいたい治ってるけど、再発の危険がある)することはよくあることですが、それでは、本当の「治癒」に到達することは可能なのか?
筆者はこの問いに対し、うつから回復された方の体験記などを引き合いに出しつつ、こう述べます。
「うつ」からの本当の脱出とは、元の自分に戻ることなのではなく、モデルチェンジしたような、より自然体の自分に新しく生まれ変わるような形で実現されます。
このように、repair(修理)的な治し方ではなく、reborn(生まれ変わる)ような治療が必要だというわけですね。
うつから回復された方は例外なく、発症前までの自身の「生き方」や「考え方」について、根本的な見直しをされているようです。
確かに、ただ単に薬を処方して休んでも、よくはなるかもしれないけど、また同じような職場環境に戻ったら再発のリスクがありますよね。
自身の「生き方」や「考え方」について変えていくには、認知行動療法的なアプローチも効果的なのだろうと、個人的には思います。
現代社会にうんざりしている「心」
本書で、僕が最も同意した文章を引用してみましょう。
(中略)「うつ」という状態を引き起こしている「心=身体」は、(中略)大自然の原理で動いている場所だからです。
現代社会が重きを置くような「人間は働くべきものだ」「少しでも無駄なく人生を進めるべきだ」「毎日を有意義に過ごすべきだ」「常にキャリアアップを目指そう」「時は金なり」「寸暇を惜しんで勉強せよ」「努力してこそ成功する」「常に右肩上がりの成長が望ましい」等の価値観に長い年月従わされてきて、大自然由来の「心」はもうすっかりうんざりしていて…
僕はそれほどひどいうつではありませんが、これらの、現代社会が重きを置くような価値観に嫌気がさしてきている今日この頃です。ましてや、「うつ病」になられた方は、いっそうこれらの言葉には敏感なのでしょう。。
また筆者は、「うつ」が現代人すべてに警告を発しているとも言います。
およそ人間的とは言えない満員電車に押し込まれて毎日通勤し、機械仕掛けの時計の時間に追い立てられ、効率優先・利潤優先の要請に追い回されて、プライベートを楽しむための方便として仕事に行くはずだったものが、仕事の疲れをとるだけのプライベートになってしまう本末転倒
本当にその通りですね。これでは、「心=身体」が反発するのも無理はありません。
まとめ
というわけで今回は、「「うつ」の効用 生まれ直しの哲学」を読んでみて、印象に残った点を紹介してみました。
今回取り上げたように、著者は「うつ」という現象を「頭」「心」「身体」の模式図でわかりやすく説明してくれています。
また、「うつ」が現代社会を生きる我々にも、「生きるとはどういうことなのか?」といった、消して無視できない重大なテーマを投げかけてくれていることも注目に値します。
共感された方、興味を持たれた方は一度手にとって見てほしいと思います。
ではまた。
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